『母の形見は借金地獄 全力で戦った700日』(歌川たいじ)今年読んだ中で一位・二位を争うくらいの名著でした

『母の形見は借金地獄 全力で戦った700日』(歌川たいじ・KADOKAWA/エンターブレイン)を拝読しました。晩年仲直りしたものの、幼少期から虐待を受け続けた母の残した借金に著者の歌川さんが苦しめられる、というあらすじを知り、どうしても読みたくなったのですが、漫画・活字関わらず、今年読んだ中で一位・二位を争うくらいの名著でした。

相続放棄の大切さ

私は家庭環境がアレなので、両親への対応を教わりに弁護士事務所に行ったことがあります。

「一番怖いのは、親が借金を残して死んでしまって、勝手に子が連帯保証人にされちゃっている場合です。そういう場合、連帯保証人である子の預貯金は凍結されちゃって、もう当人のお金じゃなくなっちゃうんですよ。実際にそういうケースがありました。」

弁護士さんはそう言うのでした。そして、こう教えてもくれました。

「なので、親が死んだら、速やかに相続放棄。借金があるのに相続放棄しないと、本当に悲惨なことになりますよ。」

「こいつさえいなくなってくれれば人生楽なのに……」とは、多くの被虐待者が思うこと。なのに、悲願叶って本当にいなくなってしまった後にも「こいつ」に苦しめられるケースがあるなんて。やりきれない思いです。

もしそういった状況になってしまったら、相続放棄だけが希望のように思えました。

しかし、この本を読んで、私は相続放棄でも子が借金から逃れられないケースもあるのだと知りました。

相続放棄しても借金の対応に追われた歌川さん

本書の歌川さんは、法的に相続放棄したにも関わらず、母上の残した借金の対応に追われることになりました。

事業をされていた母上が、銀行からのみならず、友人・親戚からも借金をしていたからです。その額、約数千万円。

 

歌川さんは相続放棄していたので、法的にはその借金を見て見ぬふりすることもできたはずです。けれど、彼はそうしないことを選びます。

それはなぜか?

 

虐待されてきた者だからこその選択

本書を読んだ私の考えですし、失礼な言い方になってしまうかもしれませんが、ひとえにそれは歌川さんが虐待されて育った歴史の持ち主だからではないか、と思いました。

虐待されてきたからこそ、不幸が連鎖していくのは絶対に食い止めたいという思いが強い。債権者の側の不幸にまで、目がいってしまう。

理不尽に不幸にさらされるということのなんたるかを嫌というほど味わってきた歌川さんだからこその選択だったのではないかと思いました。

「法的に責任がない借金なんかばっくれればいいのに」

と多くの人は思うかもしれません。

けれど、おこがましいけど、私は歌川さんの気持ちわかる気がします。

歌川さんはこのために裁判でも戦いました。しかも控訴までして。すごい戦いの軌跡が本書で描かれています。

 

自殺した人たちのゴースト

本書には「自殺した人たちのゴースト」も登場します。

実は、拙著『失職女子。』では、「死神のアリアが聞こえたら」という一節を書いたんですが、この「ゴースト」さんたちが私のイメージする自殺へと人をいざなう「死神」そっくりでした。

「私に見える死神も、こんなかんじなのぉ!」

読みながら、不謹慎にも嬉しくなりました。私に力がないので絵に起こせなかったイメージを、歌川さんが絵にしてくださったようで。

 歌川さんのすごいところは、私が考えもしなかったこの「ゴースト」さんたちの痛みにまで目を向けているところです。

ゴーストさんたちが登場する法定のシーンは、世界がくるっと変わったかのように感じました。これぞ、目から鱗。

 

毒親もの史上に残る名シーン・父との再会

父上との再会シーンも描かれるんですが、こちらも秀逸です。まさに漫画でしかできない表現方法です。毒親もの史上に残る名シーンだと思います。

 

母の形見は借金地獄 全力で戦った700日 』、家庭がアレな方なら絶対共感できますし、さらに、自殺を検討している人もご一読されるようお勧めしたいです。