昔々、あるところに、ちっぽけな王国がありました。
ちっぽけな王国のちっぽけなお城には、王様、王妃様、お姫様、王子様の四人が暮らしていました。
王様は、人の笑顔を奪うのが何よりも好きで、王妃様は、人のお菓子を奪うのが何よりも好きでした。
そのせいか、ちっぽけな王国には、村人は誰も住んでいませんでした。ちっぽけなお城に住む四人だけが、ちっぽけ王国の住人だったのです。ちっぽけ王国には、木や花やきのこはなく、茶色く枯れたねこじゃらしがぼうぼうと生えるばかりでした。
ちっぽけ城のお姫様は、少し風変わりなお姫様で、3歳になると、こう言いました。
「べんきょう、したい。」
そして隣村の寺子屋へ、一人で毎日よちよち通うようになったのでした。
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隣村には、木やお花があって、きのこも生えていました。運がよければ、リスやうさぎにそっと触ったり、きれいな鳥が飛んでいるのを見ることもできました。お花や鳥を眺めながら、読み書きや算数を勉強しに隣の王国に通うのは、姫様にとってとても楽しいことでした。
寺子屋によちよち通う姫を見た村人たちは、口々に姫様を褒めてくれました。
「おぅ、隣の王国の姫嬢ちゃん。ちっさいのに勉強かい、えらいねぇ!」
そう言って、姫様に、ブルボンのホワイトロリータをくれました。
姫様は、食べかけでも腐りかけでもないお菓子を見るのは、初めてでした。目をまん丸にしてお礼を言いました。
「ありがとう!」
覚えたてのスキップでぴょっとこ、ぴょっとこ、とびはねながら、姫様はちっぽけ城に帰りました。
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お城の扉をぎぃと開けると、大広間には、王妃様がいました。王妃様はでっぷり太った身体で長椅子に沈んでいました。脂肪がこぼれおちそうな首をゆっくりと回して、広間に入ってきた姫様をジロリと見やりました。
王妃様は、姫様が手に持ったホワイトロリータを見るなり、顔色を変え、こう叫びました。
「お……かぁ……ししぃ……!!」
ギシ!と大きな音を立てて長椅子から立ち上がり、ドドドドド!とお城の床をゆらして、姫様のほうへ、ものすごい速さで走ってきました。
お城の石でできた床が揺れるので、姫様はグラグラしました。そんな姫様の手からビリッ!とむしりとったホワイトロリータを、王妃様は貪り始めました。
「ばりばりぼりぼり!」
そこへ姫様の弟である王子様がやってきて、ぎゃあぎゃあ泣きだしました。
「おうじくんもほしいぃぃ!ぎゃあぎゃあ!」
王子様は自分のことをぼくと言わずに、王子くんと呼ぶのでした。王妃様はホワイトロリータを何個か王子様の口に押し込みました。
ホワイトロリータを横取りした王妃様と王子様にむかって、姫様は怒りました。
「それはむらびとさんからもらったものな……」
姫様の言葉が終わる前に、王妃様は丸太のような腕をスイングしました。
ブン!
クリケットのラケットに当たった小さなボールのように、姫様は大広間の隅までヒューーンと飛ばされてしまいました。床に落っこちた姫様がゆっくり目を開けると、きれいな鳥たちがピヨピヨ飛んでいるのが見えた気がしました。
「フン、まずい菓子……」
王妃様が吐き捨てるように言いました。
つづく
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