血液検査の結果は、おしなべてファッキン良好だった。
ただほんの少し、肝臓の値がファックドアップだっただけさ。
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あっし、記憶が時間に沿って脳みそん中に残ってないんでさ。
なんていうか、活動写真っていうんすか?あれみたいに、一本のフィルムにダーッと絵がきれいに並んでる状態じゃないんで。
バラッバラの写真なんすよ。記憶が。繋がってない。
ガキんころから今まで、人生のいろんな瞬間を切り取った写真がアルバムにもなんにも収まってなくて、ドサドサドサーって、頭ん中にぶちまけられてるみたい、っていうのかな。
風がごうっと吹いてくるとき、あるじゃないすか。
地下鉄のまっくらな穴から電車がこっち向かってる時とか。
ごうって風に吹かれると、ただでさえぐちゃぐちゃなおいらん頭ん中の写真たちが、風にあおられてブアーって飛び回るんす。
そうすると、なんでこんな奴の顔思い出すんだ?っていうようなね、名前もほとんど覚えてないような奴の顔の写真が一番上に飛んできたりして。
無駄に思い出したりして。
もともと全然仲良くもなんともない奴だったのに、なーんでこんな時に?って。
おいらも、20代の前半くらいまでは、そういう奴とも、またいつか会えるんじゃないかって思ってたんすよ。
おいら、ガキん時から、親にあちこち連れ回されて、3年とおんなし町に住んだことないんでさぁ。
ずーっと昔の、おいらがガキんときのちょっとした知り合いともね、いつかはまた会えるんじゃないかって。
けど、20代も後半になってからっすかねぇ?気づいたんすよ。
ああ、もう、きっと二度と会えないんだ。って。
きっとおいらが死ぬ前にあいつらとまた会う可能性より、会わずににおいらが死んじまう可能性の方が高いんだなってね。
それに気づいてからは、おいら、人と別れるときには必ず、こう言うようにしてるんす。
「それじゃ。
きっともう二度と、お会いすることはないでしょうね。」
って。
『ライ麦畑でつかまえて』ってあるじゃないすか。
あの本の主人公のホールデンってのが、
「こんなくそみてぇな場所のくそみてぇな奴とでも、二度と会えないって思うと、なんか、すげぇムカつく」
みたいなこと言ってるじゃないですか。
きっと、そういうことなんすよ。