私の父のどこがどうおかしいか説明するのはなかなか難しい
なかなか人と共有できない「現実」を生きています。私の父のどこがどうおかしいか説明するのはなかなか難しい。
20代後半の私が体を壊したときに父が病院の診察についてきたことがあった。ここまで書くと「普通にいいお父さんじゃないの」と思われるかもしれない。
もう少し説明する。
父が私と行動をともにすることなど、生まれて初めてのことだった。
子供の頃から、目すら合わせてもらったこともない。こちらが「お父さん」と呼んでも、完全に無視をする。父親とはいえ、そんな調子なので、彼とはなんの人間関係も築けていない。いわば、私にとって父はほぼ「知らない人」状態である。
その知らない人である初老の男性は、私が子供の頃からわけのわからないことで突然怒り狂う癖がある。
こう考えてみてください。知らない初老の男性(キレキャラ)が、自分の診察についてくる。この気味悪さが少しは伝わるでしょうか。
その診察にて、医師が、無農薬で野菜を作っている農家から野菜を分けてもらっていることなどを、あくまでも雑談の範囲で少し話してくれた。私は父がいつキレるかはらはらしていたが、なんとか父はキレることなく診察が終わった。
が、しかし、父の「キレ」は、帰宅後起こった。
「おい、お前、あのセンセイがどこから野菜仕入れてるか、聞いてこい」
酒を飲みながら、父が言う。
あまりに突拍子もない発言に、なにをどう解釈すればいいかさっぱりわからず、こう聞くのが精いっぱいだった。
「なんで。」
「なんでとか理由はない。いいから電話して聞いてこい」
「理由ないのに聞けないからいやです。」
「なんでお前はそうなんだ!気が利かない!ちょっと聞くくらい大丈夫だし時間もかからない!センセイも教えてくれるだろ!」
私は、父に、以下のように説明した。
①なぜそんなことが知りたいのか?それがわからなければ私にはどうすることもできない。
②知りたい理由があったとしても、私も医師のプライベートを無遠慮に聞くことなどできない。
③それでもどうしてもというなら、ご自分で電話して聞いてみればいいんじゃないか。
ということをジュンユンと含めて諭すように父に説明する努力をした。
当然、知らない初老のキレキャラ男性(アルコール中毒)に、私の話など通じない。
「知りたい理由などない!センセイはそれを教えてくれるはずだし教えるべきだ!そしてそれをお前が聞くべきだ!」の三点張りである。
酒を片手に父は喚き散らす。母親も、私が父の願いを聞きいれないとんでもないケチで性格が悪いと罵倒する。
私が間違っているのだろうか?世間はどう考えているのだろう?
それを知るために次の診察時に、医師に直接、野菜の件を聞いてみた。野菜は個人的にわけてもらっているもので、その農家の名前を公にしていいかわからないので、教えられないと医師は言った。当然だと思った。
それを聞いた父は、酒瓶を手にもったまま、再び怒り狂った。
これであきらめるかと思ったが、なんと父はいきなりその医師のところに電話をかけて、野菜のことを聞いた。案の定、医師には断られたようだった。
「不愉快だ!あいつはセンセイでもなんでもない、お前はもうあんなところにかかるな!」
酒のしずくが飛び散る。その飛沫が自分にかからないように、顔をそむけた。
不愉快なのは私のほうだ。
不愉快どころではない。自分で医療費を払い、通い続けている医師と私の間にできつつある人間関係と信頼関係に便乗して自分のくだらない我を通そうとする。わずかながらできつつあった私と医師の関係を踏みにじり、壊す。私の社会的信用までも、奪いさる。知らない初老の男性がした行為とは、つまりそういうことだった。
この一連の出来事は、私の胸を、なによりも、恐怖でいっぱいにした。
意味の分からないことを主張し、自分だけが世の中すべてを理解している、自分の言っていることだけが正しくて世界中が間違っていると怒鳴り続ける酔っ払い男性が、目の前にいる。そして、その酔っ払いをほめたたえ「あなたの言う通り」ともちあげ、ますますつけあがらさせる女性が、そいつの隣にいる。
この人たちは自分の両親ではないと思いたかった。けれど、現実は。
知らない人たち。こう考えるのが、一番しっくりくる。これが私の現実。
けれどこの現実は、恐らく経験したことのない人にはなかなか想像できないものだと思う。だから、私は人と共有するのが難しい現実を生きている、ということなのだろう。