目が覚めると自分がどこにいるのかわからなくて怯える

目が覚めると自分がどこにいるのかわからなくて怯える。

起きたらベトナムのバンガローにいた。ベランダの端ギリギリに横たわっているから今にも落っこちそうでヒヤヒヤする。

「いつまで寝てるの!!」

もうすぐ近親者が私をベランダからつき落としに来るだろう。どこに逃げよう?

動悸がする。

掃き出し窓の外を流れるメコン川の岸辺におばあちゃんがいた。ラベンダー模様のサマードレスを着ている。風にふかれて気持ちよさそう。あそこに行こうかな?

でもおばあちゃんはこっちを見ないし、そもそも私は動けない。

だからきっとこれは夢。私はここにはいないんだ。

 

目が覚めると病室だった。

なあんだ、こっちが現実か。

光射す窓辺に知らない「おとこのしと(男の人)※*1」が立っていた。慌てて目を閉じる。周りで話し声がするのは同じ病室の人たちだろう。

めんどくさいことに巻き込まれたくない。こういうときはたぬきねいりが一番だ。

運が良ければそのまま本当に眠れちゃうしさ。眠ってれば何が起こってもへっちゃらなんだから。

布団の中に「おとこのしと」がいることに気がついたのは、手のひらに強く押しつけられた舌の感触が気色悪かったから。

とっさに舐められてる右手を引き抜いたけど、ザラリとした生暖かい舌の感触が焼け付いたように手に残っている。

おばあちゃん助けて!

すがるように川の方を向くと初めて目が合った。その目は真っ黒のがらんどうだった。

 

その瞬間世界が腐り始めたんだ。

ドアを開けても、入ってくる虫の大群に邪魔されるから逃げられない。

大人の言う事は全て性的なニュアンスが含まれていることにも気が付き始めた。もう大人の声を聞くだけで吐き気を催す。

 

「あの子もやられたんやって」

「◯◯ちゃんもやで」

「◯◯ちゃんもベッドに入ってパジャマの中触られたんやって」

 

質問したって大人たちは本当のことなんか絶対に教えてくれない。

だから私はたぬきねいりをして、大人たちヒソヒソ声からほんとうのことを知るんだ。

今はトイレに行きたい。トイレがどこにあるのか思い出せない。

目が覚めると自分がどこにいるのかわからなくて怯える。

 

 

*1:※子供の頃「人」を「しと」と発音していたので記憶のままにした