!!閲覧注意!! Reader Discretion Advised
【この記事には貧困、自殺、エロ、グロ、の表記が含まれます。フラッシュバックなどで具合が悪くなりそうな方はこの記事も読まないでください。】
『実録企画モノ(卯月妙子著)』
【目次】
はじめに
『実録企画モノ(卯月妙子著)』
超・不況の現代だからこそ共感できる名著だと思いました。
Amazonには
伝説的カルトAV女優にして1児の母・卯月妙子の超過激な主婦生活!!
と紹介されていますが、この紹介のされかたは個人的にはちょっとミスリードなんじゃないかなあ、と思う。
もっと深い作品なのでは……?
ただし多くの名著がそうであるように、本書、読むにはキツい本です。
劇薬です、ご注意を。
私の背景
私は子供時代に虐待を受けたことが原因で重度ストレス障害、PTSD、睡眠障害、パニック発作などになり障害者手帳3級を持っています。
実家との縁がなく、複数の持病を抱えています。
過去にリストラに遭い、貯金も底をついたタイミングでアパートから退去命令が出て
「ありきたりだけど借金か自殺か風俗? 他に道はないのだろうか?」
と探したことがあります。
こういった経験を持つ私が『実録企画モノ』を読んで
「凄い!」
と思ったポイントをいくつかご紹介させてください。
あらすじ
2000年発行の『実録企画モノ(卯月妙子著)』は太田出版の「マンガ・エロティクス」に掲載されていた作品です。
時は1997年7月。卯月妙子さんの夫が経営する会社が倒産。
そんなシーンから本書は始まります。
p.9 より。会社倒産に際しても冷静な元夫さんのこの言葉、2023年の日本を予言しているかのようです。
一家の収入源が途絶え、卯月妙子さんは
p.9 日々の生活費が即まかなえて託児所代支払っても尚かつ上がりの多い、主婦でもできる仕事とは?
という条件で就職活動を開始。
SMやスカトロ雑誌でモデル・レイアウト・ライター・イラストレーター・漫画などの仕事を掴みます。
やがてAV女優や現場のADの仕事へと活躍の場を広げた卯月妙子さん。
出演作は近所のビデオ店の「当店イチオシ」コーナーに陳列されるまでの人気に。
しかし1995年12月24日*1、かねてからの予言どおり、夫がパフォーマンス・アートとして自殺を決行。
円形脱毛症になっても病院の待機室で漫画を描き続け、心労で激やせした卯月妙子さんが描かれた一コマで本書は締めくくられます。
凄いポイントその① :『実録企画モノ』は働く女性の貧困を描いている
p.9 日々の生活費が即まかなえて託児所代支払っても尚かつ上がりの多い、主婦でもできる仕事とは?
↑p.9 より
この卯月妙子さんの願いは、一切「過激」ではありません。
普通に人間らしく生活したい、そのために一生懸命働きたい、ってだけ。
そんな基本的なことがかなわない社会こそ、おかしい。
2023年現在でも働く女性の貧困が解消されない社会が私は悔しいです。
仕事に関しては、卯月妙子さんの仕事を得るバイタリティ、そして一人何役もこなして働くマルチな才能が凄いと思いました。
私は「借金か自殺か風俗」以外の選択肢として「生活保護」を選びましたが、卯月妙子さんはSM誌のグラビアモデルの仕事を選びます。
そこがまず凄い!
本書ではさらっと書かれているので見落としがちだと思うのですが、それがどれだけ凄いことか、ちょっと考えてみてくださいよ……
生活に困った人が
「あ、大丈夫っす、自分SM雑誌のグラビアでモデルするんで」
って収入が得られる世の中ならば貧困で苦しむ人はいません。
卯月さんはさらに雑誌のレイアウト・ライター・イラストレーター・漫画AV女優や現場のADの仕事まで、一つひとつ掴んでいったんだなあ、と思うと尊敬しかありません。
あやかりたい……けど無理……なので眩しいです。
凄いポイントその② :供養の意味合いで描かれた作品?
bunshun.jp
このインタビューによると、本書に出てくる一人目の夫は卯月妙子さんにとっては教師であり、非常に尊敬していた人なのだそう。
元夫さんは芸術分野で仕事をしていて、なんとIQ140超え。
そんな彼は、実行数年前から自殺することを宣言していたとのこと。
https://bunshun.jp/articles/-/53487?page=4
私はこのぺージに掲載されている死んだ夫の戒名と般若心経を背中一面に入れ墨した卯月さんの写真が胸に迫ってきました。
インタビューから元夫さんとの関係性を知れて、この写真を拝見できたことで、おこがましいのですが、この本を出版した卯月妙子さんの意図が初めて理解できたような気さえしました。
あくまでも個人的な想像ですが
「『実録企画モノ』は尊敬していた師でもある元夫さんへの供養の意味合いが強かったのかなぁ?」
と……。
pp.18-19 ↑ これらのコマを読んで、卯月さんがアダルトビデオでshitをかぶるのは芸術表現としての意味遭いもあったのだと思いました。
↑p.46 卯月妙子さんは自身で企画した『うんげろミミズ』というアダルトビデオでミミズを食べ、その供養に悩みます。
「無援様の前では土も木も動物も虫も人間も何から何まで同格一切横並び優劣なし!!」
という思想には私も共感します。
凄いポイントその③:漫画と向き合う姿勢が「過激」で「壮絶」
「背中一面にお経と戒名を入れるほど大切な人を亡くしても、病気抱えてても、卯月妙子さんは漫画を描き続けたんだ!」
と知れたことで
「この本は凄絶だ。」
と思い『実録企画モノ』を愛おしいと感じました。
引き合いにだすのもおこがましいですが、私も漫画の真似事みたいなものを描いたことがあるんです。
死ぬほど大変でした。
漫画の才能どうこう以前に、漫画を描く作業はともかく身体的にキツいのです。
それを病気かつ心労のときにやってのけるなんて壮絶としかいえません。
そして夫の自殺や自分の仕事をここまで客観視して漫画化できる卯月妙子さんの頭脳も別格だと思いました。
まとめ
卯月妙子さんはAV女優やSMストリッパーだった過去、病気、自殺未遂、入院などを「過激」「凄絶」と評されクロースアップされがちです。けれど、私はそれらを「過激」「壮絶」と表現するのは少し違うと思う。
だって、日本って、病気だから【こそ】性産業で働くしかない女性が多い国じゃないですか。
私自身が貧困、かつ精神疾患を抱え、失職を経験しているからそう思うだけなのかもしれませんが。
↑p.90 卯月妙子さんをビンタし、切迫流産でのお産を精神論でなんとかしようとする産婦人科医。
私このコマ大傑作だと思う。
このコマに日本の女性の生きづらさ全部が込められている。
女性は必見です。
卯月妙子さんが「過激」で「壮絶」なのは、過去の職業や病気じゃなく、漫画に向き合う姿勢だと思いました。
決して希望に満ちた内容の本ではないのかもしれません。
読むのに注意も必要です。
だけど著者・卯月妙子さんの仕事に対するまっすぐな姿勢からは多くの人、特に女性は希望を感じられるのではないでしょうか。
『実録企画モノ』、未読の方はこの機会にぜひ読んでみることをおすすめします!