さゆりちゃんは5歳。
夜、真っ暗な部屋で一人で寝ていると、
「バタン!」
音がして、大人が部屋に入ってきます。その人は、しばらくさゆりちゃんの寝ている布団のそばでじっと立っています。それが済むとその人は、ふとんの上からずっしりとのしかかってきます。あまりの重さに、さゆりちゃんは息ができません。
さゆりちゃんは、お腹にピンを刺されて標本にされた虫みたい。
カチカチ歯をならして震えながら、さゆりちゃんは全身汗びっしょりで目覚めます。
自分が誰なのか、何歳なのか、ここはどこで、今はいつなのか、分からないまま。
やがてさゆりは思い出す。
自分が小百合であること、ここは一人暮らしのマンションであること、自分がもうすぐ40歳になること、今、西暦2014年であること。家族とはもう何年も会っていないこと。
いつになったらこいつらと離れられるのか、そればかり考えていたあの頃から、もう何年も経ったはずなのに、小百合の心は今も、戦場に置き去りにされたまま。