おとぎばなし まがお姫②

それから7年がたち、バースデーケーキもプレゼントもなしでしたが、姫様は毎年誕生日を重ね、10歳になりました。

姫様は熱心に隣村の寺子屋に通い続けていました。ある日、姫様は、綴り方の試験で、一等の成績を取りました。

「一等になったご褒美ですよ」

寺子屋の先生から、ちいさなカップケーキをもらいました。カップケーキにはピンクとベビーブルーのアイシングがかかっていて、その上にはちいさなちいさな真珠のような飾りが輝いていました。

「ありがとうございます!」

姫様は誇らしい気持ちでいっぱいになりながら、カップケーキを受け取りました。

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足取りも軽やかに、いつもの小道をちっぽけ王国にむかって帰りました。季節は冬でした。リスがほっぺたにどんぐりを沢山詰め込んだまま、忙しそうに走り回っています。そろそろ雪がふるのかな、と灰色の雲に覆われた空を見上げながら歩きました。村はずれに差し掛かったころ、姫様は、道端にちいさな子猫が震えているのを見つけました。

「みゃみゃー!みゃー!」
子猫は姫様を見上げて大きな声で鳴くのでした。姫様が子猫をゆっくりと抱き上げると、ちらちら白い雪が降ってきました。このままでは子猫が凍えてしまうと考えた姫様は、そのままちっぽけ城に帰りました。

城のドアをぎぃ、と開けると、大広間では、王様が自慢の剣を振り回しているところでした。その剣は、王様が若い頃に出入りの商人から買った安物で、刃はサビだらけで欠けていました。けれども、王様はそんなことおかまいなしに、もったいぶった仕草で壁に掛けてある剣を構え、毎日得意げに振り回しました。

姫様は、王様が剣を振り回すのを見るたびに、なんだか心につららが刺さったようなひやっとした気持ちになるのでした。けれど、今日は両手に子猫を抱いていたので少し心がほぐれていました。

子猫が自分の胸のリボンにじゃれつくのを見て、姫様は微笑みました。

 

 

王様が、凍えるようなまなざしで姫様に向けました。

「お前は今、笑ったな。俺を、笑ったんだな」

「ちがいます、ちがいます!」

姫様は必死に説明しようとしました。

「口答えするな!」
王様は大声で怒鳴り、子猫を首で乱暴に掴んで姫様の手の中からひったくりました。そして、城の地下の奥深くに子猫を閉じ込めてしまいました。

姫様も地下に行こうとしました。けれど、王妃様と王子様が通せんぼをするので、行けませんでした。

王様は言いました。

「かわいそうな子猫だなあ。お前が拾ってこなければ、地下に行かずにすんだのに。」 

姫様は、打ちのめされました。

地下からは、しばらく子猫の鳴き声が聞こえてきましたが、その声はだんだん弱くなり、やがて、消えてしまいました。

「ごめんね、ごめんね、私のせいだ」

姫様は、心の中で、子猫に謝り続けました。

「お前のせいだ」王妃様が言いました。
「おまえのせいだ」王子様も真似して言いました。

姫様が一等のご褒美にもらったカップケーキは、それを目ざとく見つけた王妃と王子にあっという間に食べ尽くされました。

 つづく

 

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